知ってて損はない時効の効用

借金はできることなら満額を期日通りに返したい、とほとんどの人はそう考えています。しかし事情によって返したくても返せず借金苦にあえいでいる人も数多く存在します。

借金苦から逃れるには自己破産などの債務整理がまず頭に浮かびますが、その他にも異色の手段があるのです。それは時効と呼ばれる法律上の効果のことで、刑法上の公訴時効だけでなく民法にも時効の規定があります。

時効成立によって、借金が合法的にマジックのように消えてしまいます。実際上時効成立で助かったというケースはあまり多くないとしても、「あれをすれば」「あれをしなければ」時効が成立したのに!、とあとで後悔することも結構あるのです。

以下、借金を抱えている側から時効の効用や注意点について解説します。

時効とは

時効は民法上、「取得時効「と「消滅時効」の二種類があります。借金については「消滅時効」が関係します。

消滅時効とは、一定の期間 権利が行使されなかった場合にその権利を消滅させる時効のことで、借金の場合では貸し主が貸金回収の権利を一定期間行使しなかった場合に時効が成立します。

債権者が個人か法人かで時効成立までの期間が違ってきます。家族や友人・知人から借りた場合は10年で時効が成立します。一方銀行やサラ金など法人からの借金では5年となっています。

時効が中断する原因

期限を過ぎた貸金については債権者は当然債権回収の動きに入るわけですが、その行為によって時効の進行は中断します。中断すると時効を促す時計が止まってしまい、時効の恩恵が受けられなくなってしまうのです。

時効の中断は一時的な中断と完全な中断の2つがあります。

債権者による提訴、裁判所への申立て

先ず債権者が提訴することによって時効は一時的に中断します。しかし提訴は時間も費用もかかるので、実際は提訴よりも「支払督促」「民事調停」「即決和解」などの方法が採られます。

支払督促は債権者が証拠品を用意して簡易裁判所に申立てを行うもので、それを受理した裁判所から債務者に文書による支払い命令が送達されます。この命令書が送達された時点でも時効は一時的に中断します。

そして債務者が2週間以内に異議申立てを行わないと、債権者は債権者は30日以内に「仮執行宣言の申立て」を行うことになります。この申立てが行われた時点で時効は完全に中断します*。

※この申立てによって発行された仮執行宣言付支払督促は専門用語でいう債務名義の一種です。債務名義発行後は借り入れ先が個人・法人問わず時効満了期間が10年となります。
貸金業者はこの債務名義を取得することで5年の時効満了期間を15年まで延長させることを日常的に行っています。

一時的な中断では、時効の中断事由がなくなれば再度時効が進行します。例えば以前に2年間だけ時効が進行していれば、その2年分も含めて時効期間がカウントされます。

一方時効の完全な中断とは、それ以前の時効期間はリセットされゼロからの再スタートということになります。

債権者による差し押さえ

提訴や支払い督促などにより、裁判所から債権者に強制執行の許可が下りると、債権者が債務者の財産を差し押さえることができるようになります。この差し押さえでも時効は完全に中断します。

債務者による債務の承認

これは債務者視点(借金している方)からは特に気を付けるべき点です。具体的には、債務者が債権者に念書を差し入れるなど、直接に債務の存在を認める行為のほか、利息を支払ったり、代金の一部を弁済したりする行為をした場合も、債務の承認があったものとされます。

このような債務の承認は債務を認めているからこそ、利息を払ったり、一部弁済をしたりするということで、時効が完全に中断し時効再開後はゼロからのスタートとなります。

債権者に誠意を見せる目的や当てのない時間稼ぎのために行ったごく普通の行為が、時効という面からは大きなマイナスになるのです*。

※子の奨学金返済が停滞してるとして連帯保証人の親に債権者より督促、少しでもいいからとの言葉に親が毎月2000円づつ返済する行為は、子の借金の時効を中断させるのか? → 中断させないとの判例があるようですが、未だに議論の多い論点なので即断は禁物です。専門家への確認が必要です
何れにしても主債務者、連帯保証人とも、「気休めの返済は害をなす」と覚えておきましょう。

更に注意点を2つ。時効期間が満了しただけでは時効はまだ成立していないということ、それと時効期間が満了しただけの状態で債務の承認をしてしまうと債務が復活してしまうということの2点です。それを防ぐ方法を以下に解説します。

時効成立のためにやるべきこと:時効の援用

時効はただ単に5年や10年の時効期間が過ぎただけでは成立しません。債務が時効になっている旨を債権者に法的に証明する必要があります。これを「時効の援用」と言います。

具体的には内容証明郵便を債権者に送付する形で行います。その文面はネット検索すれば容易に入手できます。その結果、晴れて借金から解放されることになります。

連帯保証人と時効

主債務者が時効の援用をして時効が成立すると、連帯保証人にもその効果が及び連帯保証人の時効も自動的に成立することになります。自己破産の場合のように主債務者の借金はゼロになっても連帯保証人の債務は継続する、取立てが一層激しくなるのと大きな違いです。

更に主債務者が時効期間の満了に気付かず債務の承認をしてしまった場合でも、連帯保証人は時効の援用ができるとの判例もあります。このように時効の効果は連帯保証人にも手厚くその恩恵ははかり知れません。

※ 補 足:

自分の借金(主債務者)あるいは自分が保証している借金(連帯保証人)が時効になっているのかどうかは是非知りたいところです。

しかし貸し主に知られないように調べるのは非常に困難、かと言って一般の人が貸し主に直接確認するのはやぶへびになる可能性大です。以上述べたように1000円返しただけでも、債務の承認、そして時効期間再スタートのスイッチを押してしまうことになるのですから。

場合によってはじっと時効満了を待つのもいいかも知れません。ケースバイケースです。時効も債務整理の一環として他の債務整理方法とともに比較検討するのがよいです。法律上の論点として時効判断は専門家にも難しいとされています。先ずは債務整理に強い専門家に相談しましょう。

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