自己破産:同時廃止はこんなに有利

自己破産には同時廃止型と管財事件型の2種類があります。個人が行う破産の多くは多重債務に陥ったことが大きな原因で財産がほとんど残っていない場合が多く、 90%程度は同時廃止型の破産手続きとなっているようです。

通常の破産手続きは裁判所により破産管財人が選任され、財産の換金、債権者への分配が行われます。これが管財事件です。

しかしこの破産手続きをまかなうだけの財産が無い場合は、裁判所は破産手続き開始と同時に廃止の決定を行い破産手続きを停止*します。これが同時廃止です。

※ちょっと間違えそうですが、これで自己破産の法的手続きが終わったわけではありません。借金がゼロになるのは、この後の免責手続きを完了してからです。

同時廃止型か管財事件型となるかで自己破産手続きにかかる費用や期間、資料準備、精神的負担などが大きく違ってくるので、個人破産の場合はできるだけ管財事件になるのを避ける工夫をすべきです。

また地方裁判所によっては、管財事件のいわば簡便法として少額管財という制度を運用しており、管財事件より手続きの期間も費用も大幅に軽減されます。しかし少額管財を運用している地裁*は限られているのでこの制度の適用を恩恵を受けられない地域の居住者はなおさら、管財事件化は避けたいものです。

※東京、大阪、千葉、横浜などが少額管財を採用しています。

そのためにはこのサイトのような情報源や専門家への相談によって自分なりの考えを固め、流れにのみ込まれないで冷静に困難な事態に対処する心構えが必要となります。

※少額管財については「意外とかんたん・自己破産手続き!」を参照ください。

同時廃止と管財事件の分かれ目

同時廃止の適用を受けるには、破産手続費用を支払えるだけの財産が無い、それに加えて免責不許可事由が無い*、という二つの要件が必要となります。

※免責不許可事由の条件は地裁によって考え方にバラツキがあります。地元事情に明るい弁護士等への相談をお勧めします。

財産の有無

財産項目ごとにお金に換えられる20万円以上の財産が無ければ同時廃止となります。項目とは預貯金、自動車・オートバイ、生命保険・損害保険の解約返戻金などでそれぞれが1項目となります。

会社員で将来退職金を見込める場合、今退職したと仮定して入手できる退職金の1/8も1項目として判断されます。

ただし、法律を厳格適用すれば1項目でで20万円以上の財産があれば管財事件、1項目で20万円以下でも合算して20万を超えれば管財事件、となるわけですが、地裁によっては合算60万円でも同時廃止になる場合があるなど、判断のバラツキがあります。後述の免責不許可事由なども含めて地元に密着した弁護士・司法書士に相談するのが賢明です。

自宅を所有している場合は、基本的には管財事件になりますが、ローン返済中で返済残高が自宅の処分価格を超える場合は総合的判断によって同時廃止となる場合もあります。自宅があれば即管財事件、と自分で決めつけないことが大事です。

ただし、如何に同時破産が有利とはいえ財産を事前に処分したり隠したりして同時破産となるような工作をすると、次に述べる免責不許可事由となってしまうので注意しましょう。

不許可事由とは

同時廃止のもう一つの条件は免責不許可事由が無いことです。免責とは”借金を返さなくていい”という裁判所のお墨付きこと、しかしどんな借金でもどんな場合でも全て借金をゼロにしてくれるわけではありません。このお墨付きを出せない場合というのが免責不許可事由です。

破産法第252条第1項で下記のような行為を免責不許可事由として列挙しています。

・財産を隠したり、損壊したこと
・債権者に配当すべき財産を他人に贈与したこと
・いわゆるヤミ金からの高利の借金を続けたこと
・クレジットカードで商品を購入した商品を以上に安く販売したこと
・特定の債権者のみを優遇したこと
・著しい浪費やギャンブルによって財産を減らし、過大な借金を生んだこと
・株取引・FX取引・先物取引などの「射幸行為」によって過大な借金を生んだこと

とは言え、実際の同時廃止率90%を見ると同時廃止の適用判断には相当な幅があると思えます。

自由財産というのは何か?

自己破産に関して99万円という数字をよく見かけます。同時廃止基準の20万円と混同しそうなので整理してみましょう。

自己破産しても自分で自由に使うことができる財産が認められていて、自由財産と呼ばれます。その内容は、99万円以下の現金プラス法律上差押えが禁止された財産(衣類、家電等、通常の家庭にある生活必需品)です。

加えて、自由財産の拡張制度というのがあり、その内訳は預貯金、保険の契約返戻金、自動車、賃借している自宅の敷金、保証金、退職金、電話加入権、過払い金などで、合計99万円までは所有可能です。

これだけの財産を持っている破産者であれば、同時廃止ではなく管財事件となるのが普通です。

同時廃止のメリット:費用と期間

比較のため別途一覧表を作りました。「自己破産:かかる費用はどれくらい?」をご覧ください。

任意売却という選択はありか?

任意売却という言葉はいろんな使い方をされていますが、ここでは債務超過状態の不動産を売却する意味で使います。債務超過とは家の売却価格よりも住宅ローンの残額が多い状態です。

本来住宅ローン返済中の自宅は銀行など債権者により抵当権が設定されているので全額返済後でないと売却できません。しかしここで家の所有者が借金生活に陥り破産の可能性あり、としましょう。

破産となれば自宅は差し押さえとなって競売に付され債権者への配当に回されます。銀行にとってはローンの返済は止まり、債権者としての回収も先が読めず大きな損失を被ります。そこで任意売却です。

任意売却は不動産業者が家の所有者と債権者の間に入って家の売却とローン減額を交渉実現するもので、自宅は失うものの場合によっては自己破産せずに住宅ローンがゼロとなる可能性があります。

また、自己破産する場合でも財産が無ければ同時廃止となり管財事件と比べて費用、期間とも負担が大きく軽減されます。「同時廃止にできる」というのが任意売却のセールスポイントでもあります。

しかし、この同時廃止を実現するために任意売却するという選択は慎重に進めるべきです。

住宅ローンが残っている自宅所有者向けには「住宅ローン特則」を設けて自宅を残したままの債務整理を支援する個人再生という方法があります。

個人再生では住宅ローンの返済はそのままですが、その他の借金は大きく減額されます。自宅というのは将来に向けての生活の基盤であるとの認識から特別扱いされているのです。

しかし個人再生には継続的収入、それによるローンの継続的返済が必要です。それも難しければ任意売却を考えるのが順序です。そして、任意売却しても借金返済がうまく行かないときの最後の手段、それが自己破産となります。

というわけで、任意売却は債務整理という大きな枠組みの中での一つの選択肢として検討すべきもの、そういうつもりで弁護士・司法書士に相談してみましょう。

ただ、弁護士・司法書士は任意売却の専門家ではない場合が多いので、任意売却をすると決めたら任意売却の専門家にお願いする方が確実です。

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